「よう、また来たのか」
気さくに声を掛けたのは黒獅子のキョウだった。目の前にはかつての相棒であった嬉山がいる。30代の脂の乗った時期に、不健全な地下格闘技場にいる彼は、既に人の道を半分踏み外していた。金と、有り余る性欲を持て余し、一度ここを訪れた時よりも人相が数倍悪くなっている。
「おう!また金が貰えるらしいからなぁ!!」
酒焼けした声で嬉山は豪快に笑う。薬の副作用で理性のタガが一度外れてから、野人として少しずつ嬉山の精神は蝕まれていた。だが、肉体は逆に若々しく、以前より逞しくさえ変わってもいる。キョウと嬉山は互いに無遠慮な視線をガタイに投げ合った。
(どんな雄獣になる事か……)
(キョウの肉体も雄臭くてたまんねぇな!)
思考はほんの少しずれていたが、二人がタッグで負けなしだった事がわかるシンクロ率ではある。
「じゃ、頑張ってな」
後ろ手にキョウは良い、控え室から出て行った。嬉山が泣き叫び、野獣へと変わる姿を想像しながら。
「キョウ」
「何だ」
廊下でキョウを呼び止めたのは、オーナーの狼男であるシバだった。既に臨戦態勢に入っており、キョウが気圧される程殺気立っている。
「お前の企みは、わかっている」
シバがゆっくり口の両端を吊り上げ、笑った。
「何の事だ?」
キョウはとぼける事にした。この勝負、どちらに転んでもキョウが得をするという事にシバは気付いている。
嬉山が負ければ、キョウは望み通り相方に嬉山「だった」獣人を手に入れる事が出来る。肉体は同じ、いや、それ以上なのだから人間のものより数段パフォーマンスは良いだろう。
逆に、シバが負ければ地下格闘技場のオーナーとしての権威は失墜し、人間だった時の記憶を持つキョウがオーナーになり地下格闘技場を掌握するだろう。人間を獣人にする事に嗜虐的な悦びを感じるキョウがオーナーになる事は、即ち地下格闘技場が崩壊する事に他ならない。地上には獣人が溢れ、人間は次々と蹂躙され自我を失い野獣へと戻っていくだろう。
「嬉山をお前にやろう。それがお前にとって一番ベストだろう?」
「ふん、随分自信満々じゃねぇか」
「私はオーナーだからな。お前には、無理だ」
シバが余裕の笑みを浮かべ、悠然と歩いていく。キョウは舌打ちをし、乱暴に足を踏み鳴らしたが、同時にプロレスラーとしての絶対的な力の差をシバに感じていた。
ぼうっと闇に浮かぶ様にリングがあり、嬉山とシバは相対していた。シバはエロレスには参加しないので、今回は通常のルールで行われる。薬はなしだった。しかし、嬉山のイチモツは既に狼男への性的興奮が如実に現れており、黒のレスリングパンツを持ち上げている。目つきは鋭く、邪悪ですらあった。
一方シバは余裕を持ち、堂々とした風である。手足を曲げ、なかなか回って来ない試合を喜んでいる様だ。
客席には誰もいない、が、出入り口に巨漢が背を預けて立っていた――キョウであった。嬉山が今日、ヒトのままなのか、それとも何らかの獣人に変えられてはしまうのか――、それを見極めに来ていたのだ。
「ナギが苦戦する訳だ」
シバは嬉山を見てそう口の中で呟いた。プロレスラーとしては理想的な肉付きに、キョウの相棒をこなす程の実力と経験、そして倫理観。野人化してからの体力の向上は著しく、ヒトにはおそらく敵がいないだろう。
「おめぇ、エロいカラダしてんなぁ……」
嬉山がシバに語り掛けた。顔はだらしなく歪み、汗ばんだ肉体はライトを反射させ彼をより雄臭く見せる。脳内では、シバを犯すイメージを何度も繰り返していた。
「……やるか」
ほとんど同時にファイティングポーズを取る。先に動いたのは嬉山だった。
(――!!)
シバは嬉山の速さに驚きを禁じ得ない。間一髪の所で繰り出された手刀を避ける。嬉山の鋭い指先が突き出ているシバの鼻先をかすめた。
「……あれ、当たんねえやぁ」
嬉山は不服そうに呟く。地上の闘いであれば、相手は一撃でマットに沈み、嬉山の餌食となっていた事だろう。それだけ重みと速さのある攻撃であった。
(…………楽しい)
シバは無表情でそんな事を考えていた。綺麗な茶色の毛並みの奥では、じわりと汗をかいている。プロレスで汗が出るのは、正直な所かなり久しぶりであった。
「次は、当てる!」
さらにスピードを上げて、嬉山が突進する。シバは避け損ね、左腕に攻撃が直撃した。電気が流れた様な、反射的な痛みがシバの全身を走る。
「ガァッ!!」
シバは小さく呻くと、嬉山に対する認識を改めた。
(ここでコイツをやつけなければ……)
再びファイティングポーズを取るシバ。集中力が更に高まり、空気がピンと張り詰める。
「おぉぉりゃぁぁぁっ!!」
嬉山が腕をぶん回し、シバの首を狙う。シバは避けず、その凄まじい勢いの腕をガッシリと掴んだ。獣人の力を持ってしても、ビリビリと後味を残す程の威力であった。シバは全力で掴んだ腕を捻ると、ゴキッ、と嫌な音がして嬉山が右肩を軸に回転する。
「うがぁぁぁあぁあああッ!!」マットに沈み、嬉山は悶絶していた。痛みに脂汗を流し、関節の外れた右肩を抑える。
「これは、俺の反則だ。お前の勝ちでも良い」
シバが言った。地下格闘技は何でもありだが、シバの試合だけは違う。シバは何よりフェアを重んじる男であった。
嬉山は頑なに首を横に振ると、左手で右肩を抑えながらよろよろと立ち上がった。フーッフーッ、と荒い息を吐き、シバを睨み付けるその姿は野獣の様である。
唖然とするシバに向かい、嬉山は素早く身体を捻る。遠心力を利用し、動く左腕に加速度を加えて嬉山は前に足を踏み出した。シバは完全に反応が遅れている。
手刀が、シバの顔にクリーンヒットした。
シバはよろけ、マットに片足を付く。致命傷ではなかったが、鉄の味が口いっぱいに広がった。世界が揺れている。
(素晴らしい……!)
シバは狂喜していた。嬉山というクレイジーな男と同じ様に、シバもまた、闘う事に取り憑かれているのである。獣同士が、全てを理解していた。この試合の決着を二匹とも望んでいる。シバは立ち上がる。右腕をぶら下げた嬉山は、がむしゃらに突進する。
左腕が掴まれ、先程と同じ様に嬉山は凄まじい力で回転させられた。左肩も外れてしまう。だが直ぐに嬉山は立ち上がった。最早、痛みなど感じていない様であった。
口から血を吐き出すシバ。満身創痍の闘いは、初めてである。
嬉山は両腕をだらりと下げ、シバに向かう。頭突きはあっさりかわされ、すれ違いにシバが嬉山の背後に立つ。
沈黙がリングに降りる。
「どうした?トドメをくれよ」
嬉山がじれた様に言った。
「気付かないのか、勝負はもう着いている」
シバが厳かに言う。嬉山は怪訝な顔をして振り向こうとすると、足が動かない事に気付いた。両足が明後日の方向を向いている。
「あ……ああぁぁあぁ!」
「痛みを感じなくなったのが災いしたな」
四肢全ての関節を外された嬉山は、常人よりも数分遅れてマットに崩れ落ちた。
嬉山はその大きな身体を投げ出す様にうつ伏せに倒れていた。死んだ魚の様に、時折全身を痙攣させる。息は荒く、漸く痛みが脳に届き始めた様だ。
冷静に敗北を受け止めた瞬間、嬉山を襲ったのは恐怖であった。
(獣に……俺も獣にされちまう……!)
記憶も無くし、ひたすらに闘いと性欲に耽る獣にされてしまう。シバが近付き、嬉山の腕に注射を打つ。嬉山はイヤイヤと顔を横に振るだけで、後は何も出来なかった。
「数分後には、違う生物になるだろう」
シバは冷酷に嬉山に告げた。
「う……うわぁぁあぁあああ!」
嬉山は恐怖の余りに叫ぶ。
(俺が獣に、獣、獣、獣、ケモノ、ケモノ……)
四肢を投げ出した状態で嬉山は仰向けにされる。レスリングパンツを脱がされ、シバの立派なイチモツを正常位で勢い良く挿入された。
「がぁぁあああ!」
「くく、入れられるのは初めてか……私も、久しぶりだっ、こんなに強い雄に出会ったのは!」
リズミカルに、それでいながら乱暴にシバは嬉山を突き回す。嬉山は手足が動かないので、首を左右に振り乱し、激痛に絶叫した。
「い、ああっ!、う、くあっ!!」
――ジュブ!ジュブ!ジュブ!ジュブ!
嬉山は痛みの中に、快感を感じ始める。シバという自分よりも強い雄に組み敷かれ、犯されているという快感……。野人化してからは感じる事の無かった、敗北と屈辱は、新たな性欲を開発される事により、嬉山の中で昇華されていく。
嬉山のチンポは完全に勃起し、先走りを毛深い腹に垂らしていた。シバが手を掛け、数回擦ると、嬉山は背中を弓なりにし抵抗する。が、
「ぁぁぁあ、い、イク、イクッ!イクゥゥゥッ!!んあ゛、んあ゛っ、んあ゛あ゛あ゛あ゛!!」
――ドピュッ!ドピュッ!ドピュッ!ドクッ!ドプゥ……
精液は濃く、大量であった。
黄色がかった精子は嬉山の毛深い身体に絡まり、顎や胸にべっとりとこびり付く。
シバはそれに満足し、一度大きく腰を動かし、天に顔を上げる。遠吠えでもしそうな姿であったが、ただ熱い吐息が牙の間から漏れただけであった。しかし、股間は強く脈動し、嬉山は目がだんだん虚ろになっていく。
「あ、ああ……っ!あちぃのが、入って……」
嬉山は譫言の様に呟く。ぞんざいにシバはそのイチモツをアナルから抜いた。
――ごぽぉ……
と音がし、嬉山の拡張されたアナルからシバの精液が溢れ出る。シバは嬉山を見下ろし、その無惨な姿を確認した。勝者と敗者の構図は、残酷なまでに二者をはっきりと浮かび上がらせている。
そうして、嬉山に最期の時がやってきた。最初の変化は微々たるものであったが、手足の先から急激に痛みが走る。恐怖は快感へ変わり、快感は性欲と直結する。
爪が伸びる。剛毛は黒のごわごわした獣毛へ。ブーツが壊れ、ケダモノの足が飛び出る。チクチクとした毛質が、嬉山が何になるかを予想させた。当の嬉山は肉体が変わる激痛に叫び通し、最早理性的に自らの身体を顧みる余裕がない。チンポは大きくなるが、半ば毛むくじゃらの皮が被り、包茎気味となる。尻尾は長くはなく、真っ直ぐにピンとはねていた。固く膨らんだ腹はそのままびっしり毛が覆い、乳首は肥大化し淫乱さを強調している。
「ぐぁぁあぁあああぁあ?!」
首から下を綺麗に獣人にされた嬉山は、おぞましくあり、また滑稽でもあった。しかし、その肉体はシバをもってしても強いと言わせしめたもの、強靭である。
とうとう獣人化が頭に到達すると、まず嬉山の脳がやられ、叫び声が止まり顔が弛緩していく。穏やかな顔は醜く歪み、大きな牙が下の歯から二本にゅっと突き出し、豚の様に潰れていく鼻の両脇まで延びた。口は鼻と共に全体的に前に突き出し、目つきは凶悪で獰猛な光を帯びる。耳は頭の上から生え、顔全体が獣毛で覆われた。
嬉山は新たな獣人と変わり果てた。逞しい、猪の獣人として……
「ああ、なるほどな……」
キョウは妙に納得して呟いた。猪突猛進なプレースタイルといい、嬉山と猪はしっくり来る組み合わせだったのだ。
ゆっくりと猪男が立ち上がる。既に彼は嬉山ではなかった。新しいまっさらな記憶。それは丁度リセットを押された様なもので、内容である本人の性格や気質を著しく変容させる事はない。ぼんやりとシバを見つめ、猪男は自らが精液にまみれている事に気付く。そして、性欲と闘争本能がむくむくと頭をもたげるが、その本能がシバに負けた事を察し教えてくれる。
「俺は……イノ、だ」
たどたどしく、そう猪男は名乗った。新たな名前を受けた嬉山は、もう嬉山であった事を思い出せない。
「シバだ」
堂々と握手をすると、シバはそのままリングを降りてしまう。
「キョウ!お前のパートナーだ!!みっちり調教してやれ」
そのままシバは立ち去って行った。キョウは舌打ちをし、イノの前に立つ。
「キョウだ。お前は今から俺の奴隷になってもらう」
「な、何だと?!」
ぞっとする殺気を出し、キョウはイノを威圧する。イノは決して弱くなどは無かったが、キョウの様に極悪非道な仕打ちに耐えられる程頑丈ではない。精一杯の虚勢を張っても、イノの足の震えは止まらなかった。
キョウが笑う――。
「イノ、ほらやれ」
「はい!ご主人様!!」
キョウの命令に喜び勇んでイノは相手に躍り掛かった。凶悪な爪を振りかざし、突進を繰り返す。細身のレスラーはざっくりと皮膚を裂かれ、鮮血を流していた。イノは指先の血を美味しそうに舐める。嬉山の時によくやったパフォーマンスだったが、イノはそれに気付かない。
極悪の黒い獣人ペアとして、キョウとイノは人気の的となっていた。イノはキョウにすっかり懐柔、もとい調教され、その身に染み付いた残虐なプレイを再び自らの物にした。
「好きにしていいぞ」
「はい!!」
倒れたレスラーの髪を掴み、宙空で挿入するイノ。レスラーは痛みのあまり失神してしまった。
「ちっ、使えねぇな」
乱雑にレスラーを投げ捨てると、イノは一直線にキョウの下へ向かった。
「ああ、イノ、よくやったな」
キョウは足でイノの股間を刺激していく。グリグリと、しかし痛みを感じない程度に。
「あ、ありがとうございますっご主人様ぁ!!」
ブビュッ!とレスリングパンツがぐちょぐちょに汚れていく。イノは恍惚とした表情のまま、足を開き立ち続けた。太股から獣臭い精液が流れていく。
(これはこれで、なかなか良いんだよなぁ)
キョウは密かにそう思っている。頼もしい相方の嬉山だったイノが、今や性奴隷であり、キョウは興奮を隠しきれない。が、上手くシバに丸め込まれた様な気もする。
(まあいい……しばらくはイノで我慢してやろう)
必死にキョウのイチモツを口に含むイノの頭を撫でながら、キョウはそっとほくそ笑むのであった。