・地下格闘技編/神儀

「……ったく!何でこんな格好をしなきゃならねぇんだ!」

悪態をつきながら、喜山は長く白い布の端を口にくわえて、もう一方の端を股にきつく当てがった。萎えた太く使い困れたイチモツが、ぎゅっと締められ、逞しい脹らみとなって六尺褌をもっさりと揺らす。余った布は全て弛みなく捩られ、ケツと固太りした腹に食い込む。具合を確かめる為に蹲踞の体勢になってみると、元来毛深いので、ケツからはみ出したケツ毛がいやらしく褌の割れ目に沿って丸見えになった。鏡に向かい、今度は仁王立ちをしてみる。チン毛から逞しい胸板に繋がる胸毛が、喜山の男っぷりを示していた。

神儀――そんな物がこの地下格闘技場にはあるらしい。何の神様かは想像に任せるが、異端のプロレスに関わる神が正常な奉納を求める事は想像し難い。年に一度行われるこの神儀は、人間の有志の者と、去年負けなしだった獣人が神が望む清らかな衣装――つまり、祭装束で闘い合うという物であった。

喜山は今年の人間代表であり、三十路も半ばに差し掛かったベテランの極悪ヒールである。神儀に参加したのは、勝利すれば10年分のファイトマネーが支払われるという単純な理由であったが、まさかこんなに得体の知れない物とは思わなかったのか、いささか不審げに辺りを見回している。

「用意は整いましたか?」

不意にロッカールームの扉を開け、体格は良いが身長の足りない黒色の猫男が入ってくる。これもまた、祭装束であった。喜山は何度見てもこの獣人という物に慣れない。しかも、元は人間であったというのだから、正気の沙汰とは思えないのだが、タッグを組んだ事もあるキョウから、自身がここで獅子の獣人に姿を変えた事を告げた手紙が届き、同封されていたビデオテープにその一部始終が記録されていたのを見て信じざるを得なかった。そして、その異様な闘い振りも……。

しかし、喜山はキョウが白狼に行った獣の様な凌辱を見て、無意識に股関を熱くしていた。それは自分でも信じ難い事であった。人間であった時からマスクの奥に覗いていたキョウの狂気が、喜山にも確実に存在している。相手の心をズタズタにしたい、そんなサディスティックな欲望が。

「おう、ばっちりだぜぃ!」

祭装束を身に付けた喜山は、もう一度鏡にポーズを取り、その鍛え上げた肉体美と、白い装束のコントラストを確認した。

「神儀……かぁ…」

若獅子のナギは大きな溜め息をついて肩を落とした。

獣人になると年齢が分かりにくくなるが、ナギは20代前半の比較的若いレスラーである。精力に満ち溢れ、血気盛んな雄盛りであるが、その恐るべき腕力とテクニックに富んだ技が地下格闘技場の看板に彼を登り詰めさせた。だが、まだ若く、フェアに拘るナギにとって神儀は荷が重過ぎるようだ。

一向に祭装束に着替えぬまま、いつもの履き古したレスラーパンツとロングブーツの姿で、ぼんやりとベンチに腰掛けている。

「おうおう!早くしねぇと始まっちまうぞ、チャンプ・ナギ!」

乱雑にドアを開け放ったのは、体格の良い黒獅子――キョウだ。自ら獣人に成りたいと地下格闘技場に乗り込み、人としての記憶を宿したまま望み通り獅子男と姿を変貌させた、前代未聞の男であった。ナギはキョウの実力を認めつつも、プレイスタイルに共感出来ないと思っている。それはキョウからも同じ事が言えた。

「ああ、キョウか」

ナギはぼんやりとキョウを見つめた。みっちりと密度の高い筋肉に、ぴったりと張り付く様に足元から地下足袋、六尺褌、胸下までのサラシがキョウの肉体を締め付けている。ナギは獣の本能のままに興奮していたが、肉棒が固くなる事はなかった。チャンプにはそれ位の余裕が必要である。

「何だよ、もっと喜べよ」

キョウが目の前に立ち塞がると、拗ねた様な声を上げた。ナギが反応しないのが不服なのだ。

「俺……やっぱやだなぁ…、キョウ変わってくんない?」

「何言ってんだよ、ほら、脱いだ脱いだ!」

無理矢理に衣服を剥がされ、甲斐甲斐しくキョウはナギに祭装束を巻き付けていく。その間もキョウはナギの体臭を嗅いだり、褌を締める時にだらりと萎えたチンポを弄ってみたり、乳首をつねってみたりとセクハラに勤しんでいたが、ナギは全く無反応であった。

すっかりキョウと同じ姿になったナギを突き放すと、「つまんねぇの!」とキョウは苛立ちを露にする。

「記憶……取り戻してぇんだろ」

キョウは冷たい声で言った。はっとした様にナギは顔を上げる。神儀に勝つと、獣人側にも望み通りの褒美が出る――ナギは失った人間時の記憶を希望した。

「ああ。俺は何で此処に来たのか、どんな人間だったのか、何を望んでいたのか、三年前、誰に負けたのか――どうしても、知りたいんだ」

真剣な眼差しでナギはキョウを見詰める。思い出さなければならない何かがある――獅子になった時にナギに残った唯一の記憶であった。

「じゃ、勝つしかねぇな」

キョウは当たり前の事を言う。

「キョウ、お前も何か知っているんだろう?」

すがる様にナギが尋ねた。

「知らねぇな、俺、ここに来てまだ二ヶ月しか経ってねぇし」

とキョウは答えた。が、キョウはナギの過去を知っていた。それは、謂わば人間時の記憶がある特例の特権である。キョウは、シバに獣人達の人間だった頃の記録の管理を任されていたのだ。他の獣人達では自身の記録を見て記憶を取り戻す危険性がある為、キョウは元来記憶が残っているから適任であった。

悪趣味が高じたキョウは、片っ端から獣人達が元はどんな人間で、どんな姿に変えられたのか知り、毎晩性的な興奮を得ている。中でもお気に入りなのが、千葉と郷田――現在のゴンとレオであった。師弟で犯し合い、ミイラ捕りがミイラになる。その皮肉な出来事を両者がすっかり忘れ、醜い獣として生まれ変わった。キョウがその資料に涎をたっぷり垂らしてしまう程、二匹は素晴らしい二人の人間だったのだ。

ナギについても知っていた。難病にかかった妹の治療費を得る為に、三年前此処に来たのだが、シバに敵わず敗北。他の者と同じ様に全てを忘れて獅子に獣化し、現在に至るのだが、妹の治療費は振り込まれていた。シバが便宜を図ったらしい、というのが真実だろう。兄も帰らず、独り病に苦しみ死んでしまっては、酷すぎるだろう、と。

良心の欠片ぐらいはあるキョウはその事をナギに話してやりたかった。お前は妹さんを助けたくて来たんだ、だが、力が及ばなくてシバに敗れてしまったんだ、でも妹さんは手術して貰って今も何処かで元気に暮らしているんだ――。勿論、それは叶わぬ事である。

今回、喜山に勝てば、ナギはその事を知る。それで良いのではないか、と思った。

「おい、負けんなよ!相手は俺の相棒だったんだからな!」

ナギは片手を上げて、ロッカーを出ていった。

リングに上がった喜山とナギは、頭からローションをざぶんと被った。清めの水なのかは知らないが、完全に目的がはっきりしている。赤いカプセルを手に取り、倍の二錠ずつ飲みほした。

「グウゥッ!!」

「う……あああっ!!」

身体を震わせ、一人と一匹は同時に六尺褌を押し上げた。喜山は角刈りの頭に早くも脂汗をかいている。ナギは裂けた口から野獣の涎が垂れていた。ぬるぬるした身体を撫で回し、お互いに一例し、神儀は始まった。

喜山は薬の影響で全く使い物にならなくなっていた。

(頭がやべぇ……、うっ!擦れるぅ!)

六尺褌はチンポの形に変形し、ローションで透けてしまい陰毛やカリ、玉袋まで丸見えになってしまっている。

ナギのチンポも今は戦闘態勢であった。ぴったりと腹に張り付いたチンポは、獅子の獣毛に絶えず刺激され、ナギは微動だに出来ない。

(二錠はやっぱりキツいな……ウォッ!)

募る射精感に耐えきれなかったのは、喜山の方であった。

「う……ウオオオオオ!!」

突然の突進に、ナギは頭の回転が止まる。どすん、と喜山のガタイの良い体がナギに吸い込まれる様に食い込む。ナギはよろめき、後ろにたたらを踏んだ瞬間、喜山は既に態勢を立て直し次の攻撃を仕掛けようとしていた。

「な……?!は、速い!!」

それは獣人であるナギの想定を遥かに越した動きであった。ヒトで可能なギリギリの速さ、喜山はその崖っぷちにいるのである。

ナギはガシリと両方の二の腕を掴まれ、足を払われてしまう。押し倒す形になった喜山は、ナギに覆い被さり、優位な体勢となった。

(はぁ、はぁ、何だ?この力は?)

喜山は自身の変化に戸惑っていた。止まらない性欲はナギに向けられ、その逞しい雄獣の姿に喜山は欲情している。

(俺はどうしちまったんだ?あの変な薬のせいだろうか?)

思考はまとまりがなく、徐々に散逸していく。無意識に指がローションまみれのナギの獣毛を這っていた。硬くなった乳首に指がぶつかり、円を描くようにこりこりと揉みしだいてみる。

(すげぇヨガってるぜ……、早くこいつのチンポが欲しい…)

次第に喜山は、薬の影響で交尾と参加理由の金の事しか考えられなくなりつつあった。そんな事は露知らず、ナギは身体を大きく揺らし、必死に果ててしまわない様耐えている。

「ヌアアアアアアアッ!!」

叫びが獣の鳴き声となって、喜山を襲う。しかし、既に喜山はナギの肉体の虜になっていたのであった。

(金……チンポ…金…チンポ……)

喜山の目が白眼がちになり、凶悪な人相がさらに悪くなる。喜山はたった今、倫理観を完全に失った獣と化したのである。人間から動物としてのヒトへ。欲望と本能が思考を支配し、喜山はヒトの姿をした野獣となった。

「ウヘヘヘヘェ……」

気味の悪い笑みを浮かべながら、膨らみすぎた互いの六尺褌を擦り合わせる。豪快に武骨で節くれだった指で褌ごと擦られた二匹のチンポからは、半透明の先走りが溢れ、褌を濡らしチンポの色や形をくっきりと明らかにした。

「ああぁぁあぁっ!!そんなぁっ!駄目だ!くそぉっ!」

醜態を晒しながら、ナギは悪態をついた。喜山に起きたこの現象――倫理観が元来乏しく、性欲の強い男に生じる薬の副作用『野人化』を彼は知らなかったのだ。それは極稀なケースであり、症状も様々である。人語を解さなくなったり、自分が誰だかわからなくなったりするのが重症な症例で、性欲が異常に高まる、肉体の機能が向上する、本能のままに生きる、等が軽度な症例として知られているが、喜山はその丁度中間位の症状を呈していた。金への執着が、喜山の人間としてのパーソナリティーを留めたのである。

「チンポ!チンポ!早くお前の獣臭ぇチンポ俺にくれよ!!」

ナギは喜山が人間であるという事を頭から消した。こいつは、俺達と同じになったのだ、と。

身体を起こそうと強く喜山の胸を押すも、喜山は踏ん張りが強くびくともしなかった。

「抵抗するなァ!!」

喜山はナギの六尺褌を強く握り潰し、金的攻撃を繰り出した。

「ウギャアアアアアアアアア!!」

ナギは股間を押さえながらゴロゴロ転がった。背中を丸め、尻尾をびくつかせている。全身の獣毛は逆立ち、涙と涎がリングを汚した。

喜山に仰向けにされ、地下足袋でもう一度強く踏まれる。ナギはリングに叩き付けられる程、痛みの余りにバウンドし、それからぐったりと動かなくなった。目は白目を剥き、小刻みに全身が痙攣している。喜山は満足そうにナギの褌の脇からいきり立ったチンポをずるりと抜き出し、地下足袋で器用に足コキを始めた。ナギは成す術がなかった。

「ング……ォォォオオオオンッ!!」

哀しき雄叫びがリングに響き、ナギは大量の精子をマットにぶち撒けた。汗だくで全身の毛が濡れそぼり、射精後独特の倦怠感が彼を包む。こうして、ナギは記憶を取り戻すチャンスを失ったのであった。

ナギは涙を流し、喜山の地下足袋に付いた自身の精液を舐め取っていた。汗と精液と納豆の蒸れた臭いが、鋭敏な嗅覚を刺激する。嗚咽しながらも、ナギのチンポは再び固さを取り戻しつつあった。

喜山は恍惚とした表情でそれを眺め、ナギの獣臭い汗をたっぷり吸い取った赤の捻り鉢巻きをしゃぶり、六尺褌の先端をしゃがんでいるナギの頭上に置いていた。時折、とろーりと先走りがナギに零れ落ちる。

自分が変態に変えられてしまった事を自覚しながらも、喜山はその状況を楽しまずにはいられなかった。屈強な雄を侍らせる快感は、何物にも代え難かったのである。

チンポを六尺褌から取り出し、ナギにくわえさせた。王者としては初めての屈辱であったが、身体が覚えていたのか、ナギは素晴らしいテクニックを披露する。蒸れた陰毛にこびり付いたチンカス、仄かに香る小便の臭いがナギに吐き気を催させるが、同時に強く性欲を刺激していた。

ざらつく舌がちろちろと尿道を犯し、喜山の理性を再び奪っていく。

「ウッハアァァァッ!!」

びくっと岩の様な肉体を揺らしたかと思うと、チンポをナギから引き抜き、両手を腰に当てたまま、手も使わずに精子を発射した。

「出すぞッ!ウオッ!ウオッ!ウアッ!イクッ!イクッ!イグッ!オアアッ!オアッ!ンッアアアアアッ!!」

大量の精液は、ナギの顔面にかかり、王者の陥落を認識させるには十分な効果があった。茶色い毛が艶かしい乳白色に蹂躙され、生臭い異臭が沸き立つ。ナギはがくりと崩れ落ち、大の字でリングに倒れた。

「ヘヘヘヘヘ……がーっはっはっはっ!!」

ヒールの見本の様な高笑いをすると、喜山は賞金を手にし、雄叫びを上げた。それはまるで一匹の野獣であるかの様で、地下格闘技場で数少ない地上への帰還者となった。

喜山はその後、更に悪どいプレイスタイルを取り、プロレス界をしばし賑わせた。人が変わった様に雄叫びを上げ、邪悪に笑う姿は野人そのものであり、敗北したレスラーを試合後に犯しているという噂も立ったが、真相は定かではない。

「喜山……やっぱり俺の相棒は奴でなくては……」

キョウは独り呟き、地の底から響く様な笑い声を出した。

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